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    2026/02/02

    検索ボリュームほぼゼロの市場で、AI検索が突破口になる理由

    永井 雄一

    株式会社S-fleage 代表取締役CEO
    京都大学大学院 MBA|同志社大学大学院 博士課程在籍

    サイバーエージェントでデジタルマーケティング戦略支援に携わった後、2016年に創業。デジタルマーケティング領域は10年以上のキャリア。

    工場の設備が突然止まる。原因はわからない。対策も思いつかない。

    そんなとき、担当者がGoogleを開くと、まずこう考えます。「何と検索すればいいのだろう?」

    一方で、ChatGPTに同じ悩みをそのまま入力すると、数秒後には「予知保全」という手法が提示される。

    この違いは、検索という仕組みそのものの限界を映し出しているのかもしれません。

    目次

    • 1 顕在キーワードが「存在しない」という構造問題
    • 2 SEOの「入力依存」という壁
    • 3 AI検索は「課題」と「解決策」の翻訳装置になる
    • 4 逆説的に、SEOで苦戦してきた市場ほどチャンスが大きい
    • 5 既存コンテンツの「視点の転換」から始める
    • 6 戦場は「検索窓」から「対話」へ移っている

    顕在キーワードが「存在しない」という構造問題

    SEO支援をしていると、どれだけ施策を打っても検索流入が伸びにくい市場に出会うことがあります。コンテンツの質が悪いわけではなく、サイト構造に問題があるわけでもない。それでも伸びない。

    こういうケースの多くに共通しているのが、「そもそも顕在キーワードが存在しない」という問題です。

    先ほどの「予知保全ツール」がわかりやすい例でしょう。設備の異常を事前に検知して故障を防ぐためのツールですが、工場の設備担当者は「予知保全ツール 比較」とは検索しません。なぜなら、「予知保全ツール」というカテゴリ名自体を知らないからです。

    担当者の頭にあるのは「最近、機械の調子がおかしい」「突発的な故障で生産ラインが止まって困っている」という課題であり、解決手段の名前ではない。医療の世界に「不定愁訴」という概念があります。患者は明確な症状を訴えているのに、それが既存の病名と結びつかない状態です。顕在キーワードが存在しない市場は、いわば「名前のない病」を抱えた患者のようなもので、検索エンジンという受付窓口では適切な診療科にたどり着けません。

    これはニッチなBtoBツール市場に限った話ではないはずです。専門性が高く、解決手段の認知度が低い領域であれば、同じ構造的ハンデを抱えている可能性があります。

    SEOの「入力依存」という壁

    SEOの仕組みは、ユーザーが検索窓に入力したキーワードを起点にしています。キーワードに対して最も適切なコンテンツを返す──これがGoogleの基本動作です。

    裏を返せば、キーワードが入力されなければ、どれだけ優れたコンテンツであっても見つけてもらえません。「予知保全ツール 比較」の月間検索ボリュームが100回しかなければ、そのキーワードで1位を取っても月100人にしかリーチできない。これはコンテンツの質やサイト設計の努力では解決できない、市場側の制約です。

    多くの企業がSEOの成果が出ないときに「コンテンツの質が悪いのでは」「内部リンクの設計が甘いのでは」と施策の改善に向かいますが、そもそもキーワード市場自体が小さいのであれば、施策の精度を上げても天井が低いままであるという認識が先に必要でしょう。

    AI検索は「課題」と「解決策」の翻訳装置になる

    AI検索(ChatGPT、Gemini、Perplexityなど)では、ユーザーはキーワードではなく課題をそのまま自然言語で入力できます。

    「機械の異常を事前に検知する方法ってある?」「設備の故障予兆を自動で教えてくれるサービスって最近ある?」──これらの質問は「予知保全ツール」というキーワードを一切含んでいません。しかしAIはこの課題を理解し、「それなら予知保全という手法があります」と回答できます。

    ここで起きていることを構造的に捉えると、AI検索は「ユーザーの課題」と「解決策の正式名称」の間に立つ翻訳装置として機能しているといえます。従来のGoogle検索では、この翻訳をユーザー自身が行う必要がありました。正しいキーワードを知っている人だけが、正しい情報にたどり着ける。AI検索はこの前提を崩しつつあります。

    逆説的に、SEOで苦戦してきた市場ほどチャンスが大きい

    ここまでの議論を踏まえると、顕在キーワードが少ない市場ほど、AI検索対応のリターンが大きい可能性が見えてきます。SEOでは「キーワードがない」ことが致命的だった。しかしAI検索では、キーワードがなくても課題ベースで接点を持てる。これまでリーチできなかった「課題は持っているが解決手段を知らない層」に、初めて接触できるようになるかもしれません。

    ただし、そう単純な話でもありません。

    まず、AI検索の利用シェアはまだ限定的です。2025年時点で、検索行動の大半は依然としてGoogleが占めています。AI検索に最適化したからといって、明日からトラフィックが激増するわけではない。加えて、AIには「ハルシネーション」と呼ばれる誤情報生成のリスクがあり、自社が正確に推奨される保証もありません。AIの回答は学習データやアルゴリズムの変化で不安定に揺れるため、SEO以上に「コントロールできない領域」が大きいのが現実です。

    それでも、「キーワードが存在しない」という構造的なハンデが解消される意味は大きい。完璧な手段ではないとしても、これまでゼロだった接点がゼロでなくなる可能性が生まれることに価値があります。

    既存コンテンツの「視点の転換」から始める

    AI検索への対応として、大規模なサイトリニューアルは必要ありません。まず取り組むべきは、既存コンテンツの視点を「キーワード起点」から「課題起点」に転換することです。

    自社が解決している「課題」を、ユーザーが使う言葉で言語化できているかどうかが出発点になります。「予知保全ツール」ではなく「設備が突然壊れて困っている人へ」という切り口でコンテンツが存在するか。ツールの機能説明ではなく、ユーザーの悩みに応える形で情報が整理されているか。

    さらに、AIが参照しやすい情報構造も意識する必要があります。FAQ形式での課題と回答の明示、サービスの定義文の明確化、構造化データの実装などが具体的な手段です。これらは新規コンテンツを大量に作るというよりも、既存の資産を「AI向けに翻訳し直す」作業に近いでしょう。

    戦場は「検索窓」から「対話」へ移っている

    検索ボリュームがほぼゼロの市場でSEOに苦戦している企業にとって、真に問うべきは「どうすれば検索順位が上がるか」ではなく、「そもそもユーザーとの接点は検索窓だけなのか」という前提そのものかもしれません。AI検索の普及はまだ途上であり、過度な期待は禁物です。しかし、ユーザーが情報にたどり着く経路が「キーワード入力」から「課題の対話」へと拡張されつつある以上、その変化に備えておくことの合理性は高い。戦いの場所は、目に見える「検索結果の順位」から、目に見えない「AIの推奨リストに入っているかどうか」へと静かに移り始めています。

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