2026/03/05

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熱が出たとき、体温計で測らずにとりあえず解熱剤を飲む人はほとんどいないでしょう。38度なのか、39.5度なのか。上がり続けているのか、下がり始めているのか。その数字を確認してから、薬の種類や量を判断するはずです。
ところが、ホームページの集客改善においては、この「体温計なき投薬」が日常的に起きています。アクセスが増えないからSEOに取り組む。それでも問い合わせが来ないからブログを始める。ブログを書いても変わらないから今度は広告を試す。施策は変わり続けるのに、なぜか成果だけが変わらない。そういう相談が、あとを絶ちません。
この記事では、そのループがなぜ生まれるのかを、検索行動のデータを使って構造的に読み解いてみます。「次に何の施策をやるか」という問いの前に、立てるべき問いがあるはずだという話です。
「ホームページで集客できない」という問題が、流入の問題なのかCVR(転換率)の問題なのか。この区別自体は、多くの担当者が直感的には持っています。アクセスが来ていないのか、来ているけど問い合わせにつながらないのか。感覚的にはわかっている。
しかし実際に相談を受けていると、詰まっているのはその「一段下」であることがほとんどです。流入とCVRを大まかに区別できても、「どこのチャネルが弱いのか」「どのページ・導線に問題があるのか」まで特定できていない。そこが、施策の渡り歩きが止まらない本当の理由ではないかと考えています。
流入に問題があると感覚的にわかっていても、「どのチャネルからの流入が足りないのか」を数字で把握できていないケースは非常に多いです。
たとえば「オーガニック検索からはある程度来ているが、SNSからはほとんど来ていない」という感覚はある。しかし、それを定量的に確認するためにはUTMパラメータを適切に設定してチャネル別の流入数を計測する必要があります。このパラメータが設定されていない、あるいは設定されていてもGoogleアナリティクスでの分析が習慣化されていないというケースは、実務上かなりの割合で見かけます。
もう少し踏み込むと、SearchConsole(サーチコンソール)を導入していないか、導入しているが定期的に確認したことがないという状態も頻繁に目にします。SearchConsoleを見れば、どのキーワードで何回表示されて何回クリックされたかが把握できます。つまり「SEOをやっているが指名検索しか来ていない」「特定のキーワードは表示回数が多いのにクリック率が極端に低い」といった事実が可視化される。しかしその画面を一度も開いたことがないというケースが、肌感覚では4〜5割程度は存在します。
さらに上位の計測としては、Googleタグマネージャー(GTM)を使ってスクロール深度やボタンクリックのイベントを設定し、ユーザーがどのコンテンツにどこまで到達しているかを把握するという手法もあります。ただしここまで設定できているクライアントは、現状ではかなり稀です。
CVRに問題があるとわかっていても、「どのページで離脱しているのか」「どの導線がボトルネックになっているのか」まで特定できていないケースも同様です。
GoogleアナリティクスはSearchConsoleより普及していて、アカウント自体を持っていないクライアントはかなり少なくなってきました。しかし、「アカウントはあるが、見方がわからない」「データは取れているが分析したことがない」という状態が大半です。ページ別の離脱率や、問い合わせフォームへの到達率といった数字を実際に確認したことがある担当者は、思いのほか少ないのが実情です。
より高度な計測としては、GTMでスクロールイベントやフォームの送信イベントを設定することで、「資料請求ページまでは来ているのにフォームで離脱している」「ファーストビューで半分以上が離脱している」といった課題の座標を特定できます。しかしここまで踏み込んでいるケースは、流入の計測以上に少ないです。
問題は、この「計測できていない」状態のまま施策の議論が始まることです。どのページが問題かわからないまま「サイトのデザインを変えよう」という話になったり、どの導線がボトルネックかわからないまま「コンテンツを増やそう」という方向に進んだりする。施策は動くが、何が効いたのかも、何が問題だったのかも、最後までわからないまま終わります。
ここまで実務感覚の話をしてきましたが、これは感覚だけではありません。検索行動のデータを分析すると、同じ構造が数字として浮かび上がってきます。
「ホームページ 集客」関連の検索キーワードを、施策型(SEO・ブログ・広告など何をやるかが先にある検索)、診断型(集客できない・原因・効果がないなどなぜを問う検索)、計測型(アクセス解析・CVR改善など状態を測ろうとする検索)の3カテゴリに分類し、月間検索ボリュームを比較しました。

結果は明確でした。施策型が全体の82.9%を占め、診断型は9.5%、計測型は7.6%にとどまりました。カイ二乗検定(グループ間に偶然ではない差があるかを調べる統計手法)の結果(χ²=3042.84、p<0.001)からも、この偏りが構造的なものだと言えます。効果量を示すクラメールのVは0.74と、統計学的に「大きな効果」と判断される水準です。
さらに興味深いのは、施策型と診断型で検索ボリュームの「分散パターン」がまったく異なるという点です。施策型はSEO・ブログ・広告・SNSなど複数のキーワードに比較的分散しているのに対し、診断型は「ホームページ 集客できない」という1語に80.8%が集中し、他の診断的キーワードはほぼゼロです。

施策型のジニ係数(分布の偏りを示す指標。0に近いほど分散、1に近いほど集中)0.36は、「今度はSEO」「次はブログ」「やはり広告」と施策を次々と変えながら同じ悩みを繰り返し検索している行動の痕跡ではないかと考えます。診断型の0.60が示す極端な集中は、「集客できない」以外の言葉で問題を表現する語彙を持てていないことの反映だと捉えています。
施策の言葉は豊富に流通しています。SEO、MEO、コンテンツマーケティング、リスティング広告、SNS運用。それぞれに専門家がいて書籍がありハウツー記事がある。一方、診断の言葉──「チャネル別流入の偏り」「ファネルのどの段階で離脱しているか」──はほとんど流通していません。言葉を持てないから問いを立てられず、問いを立てられないから施策を選べない。
では診断はどこから始めればいいか。概念レベルで、入口だけ示しておきます。
最初に立てるべき問いは、この数式に置き換えると整理しやすくなります。
問い合わせ数 = 流入数 × 問い合わせ率
この数式は単純に見えますが、重要なのはここからさらにチャネル別に展開することです。「全体の流入数が何件か」だけでなく、「オーガニック検索から何件、SNSから何件、広告から何件」というチャネル別の流入数と、それぞれのチャネルの問い合わせ率を把握できると、「どのチャネルの、何が問題か」という座標が初めて見えてきます。
相談を受けていてこの因数分解が出てこない場合、施策レベルの議論しかできていないと判断することになります。数字がないから分解できないのか、分解の発想がないから数字を取っていないのか。どちらにしても、計測の整備が最初の一手です。
具体的には、SearchConsoleを定期的に確認する習慣を作ること、GoogleアナリティクスでチャネルSourceの流入を確認すること、UTMパラメータをメルマガやSNS投稿に付与すること。これらは特別な技術を必要とせず、ツール自体は無料です。「まず体温を測れる状態を作る」ことが、診断の出発点になるはずです。
施策の選択肢は年々増えています。SEO、MEO、SNS、動画、ポッドキャスト、ニュースレター。選べる施策が増えるほど、「次に何を試すか」という問いが立てやすくなります。裏を返せば、「そもそも何が問題か」という問いが後回しになりやすくもなっています。
施策の実行コストが下がり、試しやすくなるほど、診断なき施策のループは加速する可能性があります。問題の座標を特定しないまま動くことの本当のコストは、施策そのものにかかるお金や時間だけではありません。「やってみたけど変わらなかった」という経験が積み重なることで、Webマーケティングそのものへの信頼が失われていくことの方が、より大きな損失かもしれません。
問題の座標を一緒に特定できたとき、クライアントの言葉が変わることがあります。「なるほど、論理的でクリアになりました」「解像度が明確になった感じがします」。これは施策の提案に対する反応ではなく、自分たちに何が起きているかを初めて構造的に理解できたときの言葉です。その瞬間から、「とりあえずSEO」ではなく「このチャネルの、この段階の、この問題に対してこの施策を打つ」という議論ができるようになる。
体温計を持つことは、解熱剤を飲むことより地味に見えます。しかし正しく熱を測れた瞬間に、打つべき手が初めて見えてきます。「何をやるか」より先に「何が起きているか」を問うこと。その順序を入れ替えるだけで、施策の意味が変わってくるはずです。
私たちがご支援する際も、最初に行うのは施策の提案ではなく、「どのチャネルの、どの段階で問題が起きているのか」を数字で特定することです。もし現状のホームページについて、施策を試しても成果が見えにくいと感じているようであれば、まず計測環境の診断からお声がけください。